酵母GAL4/UASシステムにおけるSAGA複合体

通年講義Bioregulationの第二部、「遺伝子発現」のパートが進行中。担当はAnthony Weil教授。この教授は講義がうまく、毎回の授業がとても楽しい。

五十分講義の三回に一度ほどは、指定された論文を精読する授業。

ここ二回で読んだものは以下の二つ。

Bhaumik SR, Green MR.
SAGA is an essential in vivo target of the yeast acidic activator Gal4p.
Genes Dev. 2001 Aug 1;15(15):1935-45

Bhaumik SR, Raha T, Aiello DP, Green MR
In vivo target of a transcriptional activator revealed by fluorescence resonance energy transfer.
Genes Dev. 2004 Feb 1;18(3):333-43


どちらもU of MassachusettsのGreen研から。解析対象も同じ連作論文。酵母GAL1遺伝子のUAS(upstream activating sequence; エンハンサー様の機能をもつ)に結合するアクチベーターGal4pとその転写因子への働きかけを仲介するSAGA複合体の相互作用を詳細に調べたもの。

一本目は免疫沈降法を用いて、SAGA複合体のGAL4/UASシステムへの結合の様式をin vitroで調べ上げたもの。二本目はFRET(fluorescence resonance energy transfer)という技術を独自に開発して、SAGAとGal4pなどの蛋白質の、今度はin vivoでの様子を解析している。

FRETという技術は私は今回知りました。ECFPとEYFPの異なる蛍光色素のタグをつけた蛋白質同士が結合すると、独特の波形を示す。それによって、in vivoでの相互作用を検出する、実にエレガントな実験系。すでに他の多くの研究者にも使われている技術のようですね。

この人たちの仕事はコントロールを実にしっかりと取っており、信頼感のある実験を進めている。特に一本目のFig.1はとてもすっきりとした結果を示しており、Weil教授も高く評価していた。そのような点で、大学院一年生に読ませている意図はよく分かる。

講義の形式としては、四十人ほどのクラスの皆を講堂の前三列に座らせる。そしてマイクを渡して、一人が一つの図を説明し、次々にマイクを回していく。分からなかったら次の人。大学院ともなっているので、そこでの参加具合が成績の対象になるわけではないけれど、皆やはり積極的で刺激になる。実際はマイクを回すまでもなく、質問の手はそこかしこで挙がる。この教授はとてもコントロールが大好きで、「この実験において、他に君が必要と思うコントロールは何か」という教授からの学生への質問が頻出。

二本の論文ともGenes & Developmentで発表されていることが興味深い。この雑誌は発生学の一流誌として知られるが、そこに中心を置きつつ、しかし狭義の発生学の範囲内に留まらない姿勢は有名。酵母(真核単細胞生物)の転写機構に関して、核酸と蛋白質の相互作用を詳細に解析した今回の論文も意欲的に掲載している。

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  • The EMBO Journal

    少し前に、京都時代の先輩で、現在はフランスで研究をされているKKさんよりEメールをいただく。参加されているMLにて、The EMBO Journalから求人告知のEメールが流れてきたとのこと。現在、Editor(編集者)を「二人」募集しているという情報。自分の興味を公言していると、ときにこのような好意をいただけることがあり、とてもありがたい。

    さっそくウェブサイトに行ってみると、確かにここにもその求人情報がアップされていた。まだ私に直接関係することではないけれど、自分のキャリアパスとして、日本とアメリカばかりを考えていたことはやや不覚。どんなめぐり合わせが得られるか分からないが、ヨーロッパや他の地域もしっかり視野に入れなければと反省した。

    いい機会なので、The EMBO Journalについて少し調べることに。この雑誌は、EMBO(The European Molecular Biology Organization )が発行する分子生物学の総合論文誌で、ドイツのハイデルベルグにオフィスを構えている。老舗論文誌として、評価は高い。二〇〇四年からnature誌を発行するNPGの傘下に入ったことは当時、私も目を引いた。

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    興味をもって、ウェブサイトを眺めているうちに、以下の記事を見つけた。
    Editor's Note―Authours, reviewers and editors at The EMBO Journal

    The EMBO Journalにおける編集体制や姿勢、また投稿論文のリジェクトに関して、その際よく寄せられる反論に対しての編集部の見解なども書かれており、なかなか興味深い。

    私が一番興味があるのはその編集体制。例えばnature誌では投稿論文の一次選考を、nature編集部のeditorが行っており、それを通ったものに関して、refereeに提出、査読がなされる。The EMBO Journalでも上記記事に依ると、同様のシステムを採っているようだ。

    その理由の一端が上記記事の中の"Full-time scientific editors versus part-time job for actice scientists"という項にあった。一つには、異なる様々な分野からの投稿原稿を取り扱い、評価してきた経験を蓄積できること。もう一つは研究競争からは離れた立場で、論文の評価に関われること。

    これ自体はよく分かるが、正直なところ、事務的な理由のみの範囲内に留まっており、やや弱い理由付けのように感じられる。たとえば私がNPGで聞いた話によると、natureは商業誌としての魅力を出すために、明確な方向性を示す必要がある。そのためには、natureが独自に編成した編集部による論文選考システムが必要。ということを第一に挙げていおり、こちらの方はその必要性をよく理解できた。

    ただ、上記記事の項も「科学者による兼任職としてのEditorと比較した、専門職としてのEditorの利点」、という問題の立て方自体には、誰もが感じるとてもシンプルな問いに正面から触れており、好感がもてる。

    関連して、mapleflyさんによるこちらのエントリではMolecular Cell誌のEditorかつ、Cell誌のConsulting Editorも務めるDorit Zuk博士の講演内容がまとめられている。博士号取得からポスドクへという生物科学者としてのキャリアアップと、その後のCell Press社への転身。さらには現在の仕事の困難などが話されたとのことで、とても興味深い。

    また、こちらの講演で「エディターにとって最も重要な仕事は、レビューアー選びである」ということが強調されていたとのこと。Editorは「投稿者側が避けて欲しいと要求したレビューアーを細心の注意をもって避ける」のだそうだ。レビュアー選びに関しては上にリンクしたThe EMBO Journalの記事にもほぼ同様に書かれていた。この過程をいかに迅速に、かつ公正に進めることができるかが、学術論文の出版において鍵をにぎるのか、上の二つの記事を読むとよく理解できる。

    さて、何はともあれ、今の私にはまず博士号へ向けて、日々の研究に取り組むことがまず第一。その先のキャリアを見据えつつ。

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  • 学内ゼブラフィッシュミーティング

    毎週月曜の午後三時からはVanderbiltでゼブラフィッシュを使っている研究室のメンバーが一堂に会するミーティングが開かれている。参加者はざっと見渡しただけでも五、六十人。毎回二人、発表はこれまでのところポスドクかPIが行っているようだ。さすがにこれだけ大きくなると、かなりフォーマルなセミナーといった雰囲気で、質問して発言する中心もほとんどPIかポスドク。

    参加研究室のPIを挙げてみると、私の所属する生物科学科からは、Bruce Appel: 神経における細胞移動、James.G.Patton:発生におけるmicroRNAの機能、Joshua T. Gamse:脳・果松体の左右非対称形成、Lilianna Solnica-Krezel:原腸陥入、初期発生、

    また医学部から、Tao Zhong:心臓・循環器系の形態形成、Ela Knapik:頭部形成、Jason R. Jessen:癌、転移

    といった具合。私が顔と名前を把握していないだけで、もっと他にもPIがいるかもしれない。

    成り行きか誰かの意図だったのか、ともあれゼブラフィッシュでこの大学を盛り上げていこうという機運にあるのは間違いない。魚類は水槽で飼わなければならない生き物であるため、最低限の施設を整えるだけでもかなりの研究費とスペースが必要。だからシステムを作るからには、ある程度の数の研究室で共用するのが効率的だというのはよく分かる。
    「オレゴン大学のようなゼブラフィッシュの拠点づくりを目指しているのではないか」とは現在のローテーション先の先輩NTさんの談。

    今回の発表はKnapik研のポスドク―頭部軟骨細胞の分化機構について、とJason Jessenの二人。一つ目の発表ではKnapik研と共同で仕事を進めているらしいSolnica-Krezel教授が中心になってよく質問していた。そのような共同研究の動きも活発。ゼブラフィッシュを使うならなかなか良い環境と思う。

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  • 生活の細部に宿るもの

    私が学部生だった頃、失恋を唄ったMr.Childrenの『Over』がいかに名曲であるかを力説してくれたのは、大学サークルの先輩Nさんだった。
     


     今となれば
     顔のわりに小さな胸や
     少し鼻にかかるその声も
     数え上げりゃ きりがないんだよ

     今となれば
     嘘のつけない大きな声や
     家事に向かない荒れた手のひらも


    この、やたらと具体的、また些細な指摘が、むしろだからこそ、強烈なリアリティでもって普遍的な共感を呼ぶんだよ、というNさんの指摘に、なるほどなと納得したものだった。その詩の中での具体的な部分に、聞き手は自分のケースを入れ替えてあてはめるのだろう。

    また、友人Aさん、「人との別れの何がつらいって、自分の部屋にあるほとんどの物に、別れた人の色がついていることなんだよね。あの人と無関係な物を探すことの方が難しくってさ。」

    その通りだと思った。Aさんのこの言葉は今でも自分の中でよく反芻する。そして、いかに身の回りに、現在ですら過去の人との日々が詰まった物にあふれているかを思う。だから、たとえば相手に直接もらった物だけを捨てたりしてもあまり意味がない。自分の持ち物のほとんどの中に、何かしら共有した記憶が込められている。

    そしてなぜなら、それは物だけではないから。人差し指に指輪を通すとき。ジャズ・エレクトロニカを聴いているとき。野菜の皮をむくときに、包丁ではなくピーラーを使うとき。すでに私の生活の当たり前になっているものごと、そういえば、この良さを教えてくれたのはあの人だったっけ、といちいち思い返す。それはまたきっと人間関係全てに言えること。生活の細部にこそ記憶の糸口なり、ある意味での関係の本質的な部分が宿るのだと思う。

    ま、そのように人は人の影響を受けていくという話でもある。

    思えば、この夏に日本で久しぶりにお会いした先輩ご夫婦(新婚さん)の二人が随分と雰囲気が似通っていたことが印象的だった。もともと近い感じを持っていた方々だったけれど、さらにもっともっと。

    いいなぁ、素敵だなぁ、とそこに私は一番の憧れを抱いたのでありました。


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  • 秋の夜長に

    この夏は記録的な猛暑続きだったこちらナッシュヴィルもすっかり秋。ずいぶんと空が高くなった。

    なんだか最近、ずっと前に観た『明日に向って撃て!』という映画をよく思い出す。

    images.jpg


    列車強盗ブッチとサンダンスが織り成すピカレスクロマン。アメリカンニューシネマの定石どおり(?)、悲劇としての幕切れ。『俺たちに明日はない』とか『真夜中のカーボーイ』とか、この辺りの映画が私は好きなのだけど、でも『明日に向って撃て!』には妙なコミカルさと明るさがあって特にお気に入り。

    劇中でも流れる主題歌“Raindrops Keep fallin' On My Head ”を私はよく口笛で吹く。例えば秋の夜長、何だかちょっと落ち着いた気分になれる。

    口笛ローテーションの定番はありがちに『キル・ビル』だったりもします。

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  • 二〇〇七年秋学期の授業

    この九月に大学院博士課程に入学した私ですが、記念すべき最初の学期に取っている授業は以下のもの。

    Bioregulation(六単位!);
     
     通年講義、分子・細胞生物学特論といった内容。「蛋白質」、「遺伝子発現」、「細胞生物学」と続く。この授業は今学期が六単位で、ほぼ毎日の午前中はこの講義で埋まっている。大学学部の内容のおさらいに留まらず、どの講義もかなり高度な内容に踏み込む。正直ちょっときつい…。けれどその分かなり楽しい。最近、「蛋白質」のパートが終わり、大学院で初めてのテストを受けた。

    ・Graduate semminer;

     論文発表セミナー。担当はゲノミクス・分子進化学のAntonis Rokas博士。 大学院生がそれぞれ一つ、モデル生物のゲノム解読論文を選び発表する。そう、ひたすらゲノム論文を読んでいく。勉強になるのは分かるのだけれど、二回目にして、正直飽きてきた…。

     私の発表担当は大分先で十二月。選んだのは、これまで四年間親しんできた「ホヤ」。(2002, Science)。守りに入りすぎかと自分でも思うけれど、無理せず。ウニやナメクジウオとの比較ゲノミクスの最近の知見なども盛り込みたい。

    ・Laboratory Rotation;

     アメリカの生物系大学院博士課程では、一年目の三つの学期中、それぞれ一つずつ別な研究室に所属する。言わば、学生とボスの相互にとってのお試し期間。これによって研究のみならず、様々な要素についてお互いの興味と相性を見極める。私なりにもう一つこの制度の利点を挙げると、これによって学生は少なくとも三つの研究室に強い結びつきをもつことが出来ること。アメリカの強みの一つとして、共同研究を進めることに長けていることがあるけれど、このローテーション制度もそれに一役買っているように思える。これによって学生は一年間、余計な時間を過ごしているとも言えるけれど、それを補って余りある意義があるように思う。私の今学期の所属はBruce Appel博士の研究室。内容はゼブラフィッシュを用いた神経発生学。オリゴデンドロサイトやシュワン細胞の軸索におけるミエリン鞘の発生を主にテーマとしている。得意技術はそのライブイメージング。

    ・English Listening and Speaking;

     英語のリスニングとスピーキングの授業。私は来学期から、学部学生の教育補助として、ティーチングアシスタント(TA)することになっているが、そのために必要な英語力がまだ足りないとされ、授業を取ることに…。免除の基準はTOEFLのスピーキングセクションで28点以上(30点満点)。それをクリアするのはどうしたってまだ無理という話。まぁ留学生の友達づくりにはいいかもしれないと前向きに考える。

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  • 自己紹介

    二〇〇五年八月からアメリカに住んでいます。二〇〇七年九月に所属と立場が変わったことを期にブログを書きはじめました。

    住所: アメリカ、テネシー州ナッシュヴィル
    所属: バンダービルト大学生物科学科、PhDプログラム
    専攻: 発生生物学

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    将来的な関心事: 自然科学コミュニケーション。とりわけ新規研究の推進、新たな価値の創出のための専門家間のコミュニケーション。より具体的には科学出版の今後。

    リンクはどうぞご自由に。興味深いエントリを見つけたら私も積極的にリンクします。読んだ論文や本、その他趣味のことでも、様々なことを話題にしていきたいと思っています。

    一方通行ではなく、何かしらのやり取りを大切にしたい。それはきっと、何かしらの新たな価値を生むことができる。現代では忘れ去れた価値の再発見がある。新たな流れを生むことができる。そんな考えのもといろいろとつづっていきたいと思います。



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